前回のエントリで、前段として投資家にとっての”Exit”について説明しました。

投資家が利益をあげられる機会がなければ、当然にその分野への投資は回ってこないことになるので、お金が流れるようにするためにも非常に重要であるということがまず前提であるという話です。

シリコンバレーにおいてはその歴史の中においてベンチャー業界に資金が還流する仕組みを起業家と投資家が30年近くの年月をかけて構築して、前回示した図表に表わされているようにM&Aによる”Exit”の比率を高めてきていると思います。
ちなみにこれですね。

具体的にそういったことを実現するために使われているのが、”Prefered Stock”と呼ばれている優先株なのです。

ちなみにSeries AやSeries Bというのは、このPreferred Stockの種類のことを指し示していて、シリコンバレーでは優先株を使うのが当り前なのでSeed Roundの次のRoundがSeries A Preferred StockのRoundになり、それをSeries A Roundと呼ぶので、日本で一般的になっているSeedの次をSeries Aとか2回目をSeries Bとかという表現には思い切り違和感を感じます(そもそも普通株が使われているのが一般的なので。)。

なぜ優先株を使うとM&Aが増えるのか?

正確に言うと、Deemed Liquidation Eventという、要は会社の資産が流動化されるイベント(M&Aを含む)が発生したときにどのように分配するかを定めるLiquidation Preference(優先権)という条項が重要な役割を果たしています。

優先株における優先条項はこれ以外にも様々あるのですが、この条項が最も重要視されています。

M&AというのはIPOに到る前に会社を一定のValuationで売却するということですが、この時のValuationがそこまでの調達金額に対してプラスの状況であれば、投下した資金に対してリターンがある状態になっています。

Liquidation Preferenceがあることによって、このリターンをfairに投資家と起業家で分配することができる仕組みを作ることが可能です。

どういうことかを分かりやすく説明するために、以下の事例を考えてみます。

  1. 起業家が自己資金1000万円で創業。
  2. 順調に事業が拡大し、2億円のValuationで、投資家が1億円を投資
  3. この時点で借り入れがないとすると投下した資金は1.1億円で、ValuationはPostで3億円

さて、ここでその後の事業進捗は芳しくなかったが、とある企業から買収提案があったとします。

この企業の持っている顧客資産と組み合わせると、自力で成長を目指すよりも確実で急速な事業拡大が目指せそうです。

ところが、ここで提案された買収金額が2億円だった場合、どうなるでしょう?

【普通株の場合】
投資家の持つ株式が普通株の場合は、自分たちが投資したときの価値よりも低いValuationになるので損が出ます。
(分配されるのは約67百万円で約33百万円の損)

一方で起業家は前回Valuationよりも低くなってるのですが、当初の資金が1000万円なので、この時でも利益が出るのです。
(分配されるのが約1.3億円で約1.2億円の利益)

起業家からすると、買収により創業者利得も得られ、事業についても大きく進展が見込めていいことづくしの提案でも、投資家からすると全くとんでもない話になっていますし、確かにこれはfairとは言えないでしょう。

こういうケースだと、投資家は売らないとか言う話になり、買う方からしてもややこしい株主が残っているので、成立しないということが大半になるのではないでしょうか。

【優先株の場合】
投資家の持つ株式が優先株で、ここでは分かりやすく投資資金に対して1倍の優先分配と、その後の分配も全部参加可能という優先権があったとしましょう。

投資資金に対して1倍の優先分配とは、投資した金額と同じ金額をまず分配するということですので、2億円の内、1億円がまず投資家に分配されます。

次に残りの1億円について株式比率によって分配されるので、結果的には投資家は約1.3億円、起業家は約67百万円の分配を受けることになります。

これであれば、投資家は約33%の利回りで、起業家は約6.7倍の利回りを得たということで、普通株でやったときよりは確実にfairな分配と言うことも出来ると思います。

当り前の話ですが、最終的にIPO(これもあんまり低いValuationだと実はダメなんですが)や投資家が投資した後のPost Valuation以上でのM&Aというのはすごく上手く行ったケースなわけです。

こういう時には別に普通株でも優先株でも差はありません。
(厳密に言うと、高い評価でのM&Aの場合は先で説明した優先権に何らかの制限をつけたほうが起業家に取ってはいいのですが。)

投資家のValuationより低い金額においても、合理的にM&Aしたほうが事業の成長にもメリットがあるという場合に、その選択肢があるという状況をこのLiquidation Preferenceで作り出しているからこそ、”Exit”にM&A案件が増えるのだと思います。

こういう話をすると、「そもそも日本はM&Aの買い手もいないし、金額も大きいのが成立しにくいので馴染まない」といった話をする人もいるのですが、にわとりたまごの話とも言えて、M&Aがしやすい要件を整えないことには件数も増えないし、買い手の競争がなければ金額も大きくならないので、競争起こるように買いたくなる要件が整っているというのが必要だと思います。
(逆に要件が整っていないことによりM&Aも出来ずに、より悪い結果に到ったということにもなりかねません。)

長くなってきたので、今回のエントリはここまで、ということで、シリコンバレーで優先株が使われる一番大きな理由であるLiguidation Preferenceについてのお話でした。
(一応、まだいくつかポイントあるので、続きます。次回は起業家にとっても分かりやすく、使ったほうがお得な話をします。)

Liquidation Preferenceに関して詳しい解説は増島先生のこちらこちらが非常に分かりやすくまとまっていますので、参考にしてください。
(分配についての条件に関してはこちらに解説があるように細かく設計すると説得力を増します。実はこういう優先条件がシリコンバレーにおけるValuationが高くなっている理由の一つでもあるのですが、そのへんも追々。)


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