前回前々回のエントリでは、投資家にとってのExitイベントがエコシステム構築には必要で、そのExitイベントの一つであるM&Aをより活性化するために優先株スキームを使うことが一般的になってきたのではないか、という説明をしました。

出資時点のValuationより低い金額でのM&A提案であっても、投下した金額より上回っているのであれば、投資家と起業家の分配をfairにする優先条項によって、M&Aが起こりやすくなり数が増えてきたということですね。

しつこいですが、またこの図を載せておきます。

さて、起業家やスタートアップ側から見たときに優先株を使うことのメリットは全くないのでしょうか?

実はそんなことはなく、その1で紹介した経済産業省の「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会報告書」にも詳しく説明があるのですが、ストックオプションの行使価格の設定でインセンティブの効果を高めることが出来るのです。

ストックオプションは通常、普通株に転換することが出来るとういう新株予約権です。

優先株はその2で説明したLiguidation Preferenceをはじめとして、その優先条項に経済的価値があると認められるので、普通株よりも高い価格でも取引されても良いというのが米国では一般的になっています。

これにより、ストックオプションを普通株に転換するときの価格を、その時点での優先株価格よりかなり低く設定することも可能になっています。
(10倍までの価格差は一般的に認められているようです。)

ストックオプションの行使にかかる金額はつまりはコストなので、10分の1のコストで行使ができるのであればその差額分はまるまるキャピタルゲインになります。

例えば、会社が初期のステージを超えて成長ステージに入り、優秀な人材を確保して更なる成長を目指すための増資ラウンドを行ったとします。

このとき会社の価値が25億円と評価されて5億円を新規調達し、株価1万円で5万株を発行しました。(元々の発行済株式数は25万株)

優秀人材を確保するためにストックオプションも発行して約9%分になる3万個を発行しました。
(実際の実務的にはこの後に付与するということになるので、増資したお金で人材確保するのであれば若干タイミングはずれるのですが、まあそこは一緒のタイミングとしておきます。)

この時のCap Tableは下のようになります。
(分かりやすくするために、これより以前の株主は既存株主としています。)

【普通株で増資したケース】
ストックオプションの行使価格は普通株の価格に合わせることになるので、行使価格は1万円になります。
仮にIPOして100億円のValueが付いたときには、ストックオプションは普通株に転換されて約9%分となるので(計算を簡単にするために売り出し分で減る持分とかは考慮しないことにします)、約9億円の価値になりますね。
この時のコストは(行使価格)×(ストックオプションの個数)となるので1万円×3万個=3億円のコストで、キャピタルゲインは6億円です。

【優先株で増資したケース】
ストックオプションの行使価格は優先株に対して差をつけることが可能なので、例えば仮に5分の1の価格2000円に設定したとします。
上記と同様のケースで考えると、コストは2000円×3万個の6000万円になり、キャピタルゲインは約8.5億円です。

このように行使価格をストックオプション付与発行時のValuationより低く設定することで行使にかかるコストが抑えられるので、結果として得られるキャピタルゲインが増えることになり、これを優秀人材確保のためのインセンティブとしてシリコンバレーでは活用しています。

PayPalマフィアがよく話題になっていますが、創業者だけでなく従業員含めてお金持ちになることで、資金が循環し、かつ、新たな価値を生み出すチャレンジする人も増えるということで、これもシリコンバレーのエコシステム構築に貢献しているのではと思います。

日本の場合は実務的に税制適格オプションを受けるためには直前株価以上の行使価格でないといけないというところで、直前のラウンドが優先株であってもストックオプションの行使価格を優先株の価格に合わせるといったことがあったようですが、経産省のサイトで種類株の取引価格を普通株の価格とはしなくても良いということが確認されて、こちらの障害もなくなっています。

優先株というと、投資家ばかりに有利な条件になるようなイメージかもしれませんが、必ずしもそうではないこともご理解いただけたのではないかと思います。
(まあ、そもそもリスクを取って投資してるということは、不利な状況から始まってるので、優先株の条件で有利になったと思われるのも投資家の皆さんもかわいそうです(笑))

分かりやすくするために、細かいところを多少端折っていますが、シリコンバレーにおいて優先株によるファイナンスが一般的である理由について大きい要因については説明できたんじゃないでしょうか。

投資家のリスク防衛的な要素ももちろんあり、これ以上については多少マニアックになってしまうので、あまりブログネタに向かない気もしますが、一般的によく使われている優先株の条件についての解説も次回以降にしてみようと思います。

投資家・起業家双方に優先株に対する理解が進めば進むほど、この仕組を使うための障壁も下がると思いますし、結果としてエコシステム構築につながっていけばいいなと。

それでは。


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