先日のエントリで創業期ファイナンスについて書きましたが、外部投資家としてはその後の資本政策において重要な役割を占めることになるベンチャーキャピタリスト(VC)との付き合い方について、まずはVCってどんなこと考えてるのってことを理解するのが大事だと思います。
相手を知らずしてGAMEに勝つことは難しいので。
1年くらい前に出版された本ですが、日本とかなり違うといえどVCの考え方を理解するにはちょうど良いと思いますので1冊の本を紹介します。
日本語タイトルは起業GAMEとありますが、原題は”Mastering the VC Game”で、内容としては起業家とVCの間におけるやり取りを”VC Game”と表現して綴った本です。

著者はシリコンバレーに次ぐスタートアップの集積地であるボストンをベースにするフライブリッジというアーリーステージに特化したVC会社のキャピタリストで、彼自身起業家を経てVCに転じたというキャリアです。
元々起業家でもあった彼の解説は非常に分かりやすく、起業家とVCがそれぞれどういうものであるのかを解説して、そのお互いの関係について、実際に投資契約にいたるまで、そして出資以降取締役としての関わり方について起業家がどう考えるべきかが色々なケースとともに説明されています。

VCに関しては日本の場合は欧米のそれと大きく異なる部分もあるのですが、その比較も少ししながら、参考になるところを紹介したいと思います。

起業家に典型的な特徴

起業家気質とはどんなものかという話で、一般的にお金を儲けることを目的とせず世の中を変えたいと考えるようなことだとしています。
もちろん稼ぐことに関心がないわけではないですが、実現したいビジョンが実現出来ればそれは後から付いてくるというような楽観的な考えをしていると。
そんな中でも典型的な特徴として4つ挙げられていました。

  • 明確なビジョンを伴った楽観主義
  • 楽観主義というのは逆説的ですが極度の心配性であるとも言えるかもしれません。
    思いつく心配なことに対してあらゆる対策をして、これ以上は運が左右する、くらいな人事を尽くして天命を待つからこそ、楽観主義になれるわけです。
    明確なビジョンを持つということはあらゆる対策をすることと同義だと思います。

  • 他人にも自信を抱かせてしまう、自分自身に対する絶大な自信
  • 描いてるビジョンを本当に実現してやるという想いが強いということは、すなわち自分でそのビジョンを実現しなければならないという使命感になり、これを実現するのは俺しかいないというところに昇華していくのだと思います。

  • 自分たちを突き動かすアイデアなり変化なりへの熱い情熱
  • 僕の知っている起業家でも、この熱い情熱があるこそ周囲をどんどん巻き込み、その実現に向けて邁進している起業家がたくさんいます。何よりも情熱を持って取り組むことが当り前ですが重要です。

  • 仕事のやり方を絶えず見直し、その結果、世の中をも変えていきたいという強い思い
  • 一番最初のあらゆる対策をするということと通じますが、常に環境は変化していくので、同じところにとどまることをよしとせず、どんどんやり方を見直して、実現したいビジョンを実現することで世の中を良い方向に変えていきたいという強い意志を持っていると思います。

VCとは

VCについて詳しく書かれているところで、まさにと思う部分があったので引用します。

VCは、映画で言うところのスタッフであり、決して目立ちはしないが、本人は裏方に徹している方がいいのだ。
VCは、他社の活動を支える世話役のようなものであって、自らなにかをつくりあげたり、表舞台で脚光を浴びたりはしない。
一心不乱にひとつの仕事にとり組むのがどうしても苦手だ、すぐに嫌になる、そんな人こそVCにうってつけだ。
VCは名うてのブラックベリー中毒者であり、様々な刺激を好み、そのスピードに乗り遅れまいと常にアンテナを張り巡らしているがゆえに、かえってひとつのことに集中できないのだ。

一つのことにとにかく集中しているのが起業家としたら、いろんなコトに興味があり、あれこれやってみたいと思う人はVCに向いているのかもと思います。
次から次へとチャレンジするタイプはシリアルアントレプレナーと言うことなのかもですが、同時並行でいくつもは出来ないので、やりたいことが多い起業家がVCに転じるというのはありがちなパターンなのかもしれません。
とはいえ、本質的にその事業にコミットしているのは実際にやっている人であり、VCとは裏方であり、それに徹するというのは大事なことだと思います。

VCの投資戦略

Fundの運営規模、すなわち運用資産総額が大きくなれば、1件あたりの投資金額も大きくせざるを得ず、Laterステージが専門になります。
どういう事かというと、1件あたりの投資金額が小さければ件数を増やすことになり、すなわち成功件数を増やさなければならず効率が悪くなるから、投資金額を大きくする必要があるということです。
一方で本書で取り上げられているファーストラウンドキャピタルのように、シード・アーリーステージに特化して「いずれ失敗するなら、早く、そして安く失敗しろ」を戦略にするところもあります。
彼ら曰く「1億ドル突っ込んでダメであれば大きな汚点だが、100万ドル程度ならば恥でも何でもない」と。
こうした戦略を取るVCの場合は大体ファンドの運用資産総額はそれほど大きいものではなく10億ドルまでのサイズが実際には多い気がします。
VCの投資戦略を理解することは重要であり、結局のところ取り組んでいる事業が必要としている資金総額が大きくなければ、前者のようなVCからは魅力的な案件に映らない可能性が高く、そのようなVCにアプローチすること自体が無駄になりかねないということです。
逆にファンドの規模が5億ドルでキャピタリスト一人当たりの運用総額が5000万ドルであれば、そのキャピタリストがスタートアップに対して投資する金額は大体300万ドルから600万ドル当たりがスイートスポットになるので、そのようなファンドこそが初期段階でアプローチすべきVCということになります。
日本の場合は、そこまで大きいファンドではないものの、VCがスタートアップに対して投じる金額が小さく、ライフネット生命がIPOまでに3桁億の調達をしているのが珍しい事例であり、GREEのように1桁億の調達で上場まで行くような事例が多かったりと、ここらあたりは米国とはかなり違っているところかもしれません。
但し、資産を運用しているファンドマネージャーという観点で考えれば、効率よく投資パフォーマンスを上げるという考え方は持っていると考えたほうがいいでしょう。

VCはいかに儲けるか?

皆さん、VCってどういうふうに儲けているか実は知らないのではないでしょうか?
VCは通常、運用資産に対して2%程度のマネジメントフィーを受け取って、これを従業員のサラリーや必要な経費としています。
しかし、それ以外にも莫大な報酬を手にする可能性があり、それがキャリーと呼ばれる成功報酬の部分です。
キャリーとは何かと言うとキャピタルゲイン等投資収益が運用総額を上回った場合、その部分の20%〜25%を成功報酬として受け取ることが出来ることを言います。
例えば1.5億ドルのファンドを運用していて資産価値が3億ドルになった場合、1.5億円の20%をキャリーとして受け取るので成功報酬は3000万ドルになります。
米国のVCではこれをゼネラルパートナーと呼ばれる投資意思決定をしている数人で分配しています。
(パートナーは一部のみ、プリンシパルやアソシエイトと呼ばれる人たちはこの成功報酬は分配されないというのがスゴイところ。)
ここらあたりが、一番日本のVCと違うところかもしれません。
独立系のVC以外、通常はサラリーマンVCなので、こういった成功報酬のようなものはなく、またローテーションがあって異動してしまうため、評価基準が何件いくら投資したか?で評価されるところがあります。
つまりはスタートアップの成功にコミットすることなく評価されてしまうという、おかしなことになっているVCも結構いるのです。
最近、独立系のVCも増えてきていますが、こういったスタートアップの成功が即自らの成功にもつながるような仕組みを持っていないと、なかなか価値発揮に対して貪欲にならないということもあるのかなと思います。

VCとの関係構築

VCとどうやって関係を構築していくのかについても詳しく書かれていて、大変参考になります。
いくつかポイントを抜粋して紹介。

  • 売り込みについて
  • たった一度の売り込みで投資家を捕まえられる起業家もときにはいるが、たいていは何度も売り込みをせねばならず、そうしてやっとVCとのしっかりとした関係ができ、先方が関心をもって求めているレベルのものを提示できる。
    熱い想いのままに売り込みをするだけで、決して先方からの申し出を得られない起業家も多い。
    結局のところスタートアップへの投資がVCの仕事なのだから、起業家が自分のプロジェクトへの財政的支援を受けることに失敗するのには、通常それなりにしっかりした理由がある。
    市場への情熱と技術、そして起業家の資質が、売り込みには大きな役割を果たす。

  • アプローチの仕方
  • 自分のビジネスに興味を持ってくれるVCを見つける必要がある。
    現在の投資先がどういったところかなどは事前に調べておき、自分のプロジェクトに興味を持ってくれる可能性の高い人に当たるべきだ。
    実際にそういうベンチャーキャピタリストが見つかった場合は、単にEメールを送って会いたいとしても会える確率はほとんどないと考えてよく、何とかその人と知り合いの人を見つけて紹介してもらうべきだ。
    ベンチャーキャピタリストは優れたネットワーカーでもあるので、色々なところに知り合いがいて様々な情報を入手しているのだから。

  • 準備をする
  • 実際に売り込みが出来る機会を得たならば、準備が大切である。
    DFJのティム・ドレイパーは「30分もあれば情熱を見極めるには十分。30分で理解できなければ自分が愚かだということだ。」と言っている。
    最初の15分間が特に大事で、そこで興味を惹けなければ、残りの時間はVCにとって実は拷問の如き時間である。
    リスクがあることも、たいていは上手くいかないことであることも承知しておく必要がある。
    「上手くいく確率は10%かもしれないが、もしこれが正しいとすれば千載一遇の機会である。」と説明する起業家であれば、準備が出来ていてVCからの信用も得られる。

結局のところ、VCからの支援を受けるには、VCのスイートスポットにヒットし、説得力のあるビジョンで魅了し、独自の強力なチームが構築できていることを証明する必要があると解説しています。
日本のVCでも、実際の投資を得るためにこのようなことをクリアしていくのはほとんど差がないと思います。
より実行力があるということを示すのであれば、「最初の売り込みでこれから2ヶ月でやり遂げるつもりのことを説明し、2ヵ月後にそれを成し遂げてくれば強烈な印象を与えることが出来る」とあったのですが、これは日本においても全く同じです。

一方で起業家から見たVCを選ぶプロセスはどうでしょうか?
事業を起ち上げるにあたって従業員や弁護士・会計士を選びますが、実はこの過程とよく似ているとしています。
VCは起業家にとってのサービスプロバイダーと考えるべきで、実際資金を提供してくれているとしても、それに対応する資産(株式)を渡しているのだから、それなりのまとまったサービスを期待してしかるべきであると。
では、そういったVCを選ぶために起業家がすべきことはなんでしょうか?
本書ではVCのリファレンス・チェックは必ずやるべきであるとしていて、具体的には起業家はベンチャーキャピタリストについて、そのキャピタリストが投資している企業の起業家から話を聞くべきであるとしています。
いずれ共に働くであろうVCのリファレンスチェックをするということは、いずれ自分たちが雇うだろう重役のリファレンス・チェックをするのと同じです。

契約以降

契約を勝ち取ることがGAMEのゴールではないことにも注意しましょう。
むしろそこが始まりであって、事業が継続的に成長していくことに、如何にVCを活用できるかのほうが大事です。
本書からいくつか抜粋して紹介します。

  • VCに期待すべき役割
  • 具体的に4つの役割が挙げらていて、1)戦略家、2)リクルーター、3)事業開発、4)将来の資金調達、であると。
    スタートアップにはマッキンゼーやBCGなどを雇うお金はないが、VCはいい相談役になり戦略のアドバイスを受けるべき。但しコンサル会社の言う事を100%聞く必要がないのと同じように、起業家自身がそのアドバイスをきちんと聞いて決断していくことが大事と。
    Googleの現在の成功には創業者の2人以外に大人の経営者として入ったエリック・シュミットの貢献は大きいですが、彼を連れてきたのはセコイアで、成長に必要となる人材を先回りして紹介するリクルーターとしての役割も果たす。
    過去の投資案件で築いた大小の企業との関係から事業成長に有用な紹介をしてくれるのがVCであり、顧客やセールスパートナーあるいは潜在的なの戦略的買収者にいたるまで紹介してくれる。
    一番重要な役割はリードインベスターとして次回以降のファイナンスラウンドを支援することであり、追加投資や他の投資家との交渉のサポートなど、この役割は大きいと。(日本の場合はリードインベスターとしてフォローオン投資を続ける投資家が少ないので、このあたりは違いとしてあるかもしれません。)

  • 取締役会
  • 取締役会の主要な任務とは株式価値を向上させることであり、要するに株主のエージェントである
    経営を実際に行うのはCEOであるが、取締役会はCEOを給与を決めたり、あるいは解雇することもでき、また企業の主要な契約についての承認権限をも持っているので絶大な権力を持つアドバイザリー集団でもある。
    とはいえ、VCの取締役はこの企業に対する信認義務を負うと同時にファンドLPに対する信認義務を負うため、しばしば企業にとって矛盾することを行なう(買収提示価格よりも安い金額による追加投資や、資本供給の停止など)可能性もある。
    このようなことが起こらないようにするために、透明性高く情報開示を行い起業家とVCは互いに信用し合うことが重要であると。
    取締役に関してはアメリカンアイドルの審査員になぞらえて3タイプが存在。

    1. 特定分野の専門家:型にはまったアドバイスのみになり、物事を大局的に見ていくことが出来なくなることもある。
    2. チアリーダー:いやし効果はいずれなくなる。
    3. 真実を語る:容赦がなく、率直、言うことはいつも的を射ている。いつも辛辣だが、たまにもらえる建設的なフィードバックには価値がある

    選ぶべきは真実を語る人であると。

VCとの関係性の事例の説明では自力での成長に限界を感じてVCからの資金提供を受けた起業家が、素直に取締役として名を連ねたVCに助けを求めたことにより良好な関係を築く結果となったものが挙げられています。
多くの起業家は助けを求めることを恐れ、実際に助けを求めているにも関わらず、それを認めることをよしとしないことがしばしばあり、そういう時には共に働くCOOを雇うべきタイミングであると。
いくつかの事例が出ていますが、ポイントとしては結局のところどれだけ当名声高く情報共有が出来るかであり、「ノーシークレット・ノーサプライズ」がVCとの関係性を良好にする上で大事なことであるというのは非常に納得です。

紹介したのは実はほんの一部で、これ以外にも米国VCによるファイナンススキームの話であったり、Exit戦略としてM&Aを選択肢た場合の実例に基づいたストーリーであったり、非常に内容盛りだくさんですが、VCとの付き合い方というところでここらへんで。

実はこの話、起業家にもですが、日本の投資家にも読んでいただきたい内容だなと思いました。
最後にtwitterへの初期投資を実行したユニオン・スクエア・ベンチャーズのフレッド・ウィルソンの言葉で。
「自分たちの仕事は、起業家を成功させることだ。ベンチャーキャピタリストはサービス業だと思う。起業家はクライアントなんだ。」

資金調達は投資家とのGAMEと言いましたが、勝ち負けではなく共に進む仲間を見つけましょう。



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photo credit: Vivian Viola via photopin cc